マットレスの話

前回の車中泊で、ひとつはっきり分かったことがある。

マットレスは大事だ。

あの夜、夜中の3時に目を覚まし、
車の床が思っていた以上に床であることを身をもって知った。

人は、硬いところでは眠れない。
少なくとも私は眠れなかった。


早くも、家にあるものでなんとかするというコンセプトには負けた。

まあ、アルコールチェッカーも買っているし、
あの大谷だって負ける日はある。

というわけで、マットレスを探すことにした。


さっそくネットで検索する。

すると出てくる、無数のマットレスたち。

厚さ。
硬さ。
低反発。高反発。
三つ折り。四つ折り。
収納性。断熱性。携帯性。

なんだこれは。

人類はこんなにも睡眠について考えてきたのかと、少しおどろいた。

眠るという、ほぼ全員が毎日やっていることに対して、
ここまで細かく研究し、分類し、比較している。

睡眠への欲求の深さを垣間見た気がした。

マットレスをのぞく時、マットレスもまたこちらをのぞいているのだ。

いや、たぶんのぞいてはいない。


とにかく種類が多すぎて、だんだん分からなくなってきた。

レビューを読む。

「まるで雲の上です」

雲に乗ったことがないので分からない。

別のレビューを読む。

「底つき感がありません」

底つき感とは何なのか。

私はいま、何を探しているのだろうか。


気づけば1時間近く見ていた。

カートには山積みだが、何ひとつ決まっていない。

マットレスの世界は、思っていたよりずっと深かった。

そして私は、静かに検索画面を閉じた。

人は時に、撤退も必要である。

負けに負ける、つまり反転術式で勝ち。

たぶん違う。


そんなとき、ふと手元のコップに目がいった。

このコップは某巨大テーマパークで飲み物を買ったとき、
なんとなく捨てるのが惜しくて持ち帰った、使い捨てのアルミのコップである。

なぜ持ち帰ったのかは、今となってはよく分からない。

だが、これがなかなか使い勝手がよく、
気づけば中4日の先発コップローテに入っている。

これだ、と思った。


軽い。
割れない。
なんとなく外で使う感じがある。

そして何より、すでに家にある。

マットレスは決まっていない。

だが、コップは決まった。


次の車中泊には、このコップを持っていこうと思う。

順番が違う気もするが、
そういうこともある。

たぶん次は、マットレスもなんとかしたい。

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